女性アスリートの
三主徴

女性アスリートに多く発症する健康課題には「月経不順(無月経)」、「利用可能エネルギー不足」、「骨粗鬆症」があり、これらは女性アスリートの三主徴と呼ばれています。

利用可能エネルギー不足

利用可能エネルギー不足は、食事制限オーバートレーニングにより、食事から得るエネルギー量が練習やトレーニングなどによって消費するエネルギー量を下回ると生じます。

利用可能エネルギー不足が続くと、身体が省エネモードになり女性ホルモンの分泌を抑制してしまい、無月経をはじめ、心肺機能や、認知機能、免疫機能、情緒不安など、身体のあらゆる部位や精神面に悪影響を及ぼします

さらに、利用可能エネルギー不足による低体重や、無月経による低エストロゲン状態は骨粗鬆症の原因となります。このように、女性アスリートの三主徴はお互いに関連しているのです。


アメリカスポーツ医学会では、競技スポーツを開始する前に女性アスリートの三主徴に関する評価を行うことを勧めています。「もしかして自分にも当てはまるかも」と思った方は、下記のスクリーニングシートにて簡単にチェックできるので、活用してください。

出典

  1. De Souza MJ et al. 2014 Female Athlete Triad Coalition Consensus Statement on Treatment and Return to Play of the Female Athlete Triad: 1st International Conference held in San Francisco, California, May 2012 and 2nd International Conference held in Indianapolis, Indiana, May 2013, Br J Sports Med, 48, 289, 2014.

無月経の身体への影響

利用可能エネルギー不足が続くと、脳の視床下部が抑制されることで卵巣からエストロゲンの分泌や排卵が抑制されて、月経不順や無月経が起こります

月経異常による低エストロゲン状態は、骨密度が減少して骨粗鬆症や疲労骨折のリスクとなります。また、月経異常は心血管や筋肉の機能に影響して、運動パフォーマンス低下につながることも知られています。さらに、筋力トレーニング時における成長ホルモンの分泌量が低下し、トレーニングの効果が低減することも明らかになっています。その他にも、無月経によりうつ傾向のリスクが上昇することや、将来的に不妊のリスクが上昇するなど、長期にわたって影響が出る可能性があります。

視床下部は女性ホルモンだけでなく、さまざまなホルモンの分泌を調整しています。視床下部が適切に働き、そこから分泌されるホルモンのバランスが調整されることで、月に1回の月経が訪れます。

つまり、月経がやってくることは、女性の心身の健康を保つことができている証拠です。
無月経は、身体からの異常を知らせるサインであると考えましょう。


婦人科を受診すべき症状とは

無月経の状態が長い期間続いてしまうと、卵巣の機能低下を招く可能性があります。将来、子どもを産むこと、産まないことを選択する際に、「産むことができない」状態になってしまうこともあります。

また、女性アスリートが無月経になる原因すべてが、食事制限や過度なトレーニングによるものというわけではありません。無月経を引き起こす病気が隠れている場合もあります(例えば、ターナー症候群、下垂体腫瘍、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、クッシング症候群、卵巣腫瘍、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜感染症、摂食障害、気分障害など)。

「もっと早く婦人科を受診しておけばよかった」と将来後悔しないためにも、無月経(3ヶ月以上月経がきていない)が一度でも現れたり、少しでも月経に関して不安があるのならば、婦人科の先生に相談しましょう。

下記のチェック項目を活用して、以下の症状がひとつでも当てはまれば、婦人科へ行くことを検討しましょう。

出典

  1. 東京大学医学部付属病院 女性診療科・産科. Health Management for Female Athletes Ver.3-女性アスリートのための月経対策ハンドブック-「女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究」2018. https://www.jpnsport.go.jp/Portals/0/HMFAver3.pdf

婦人科を探す時は、「女性アスリート健康支援委員会」の公式サイトの産婦人科医検索ページ(http://f-athletes.jp/doctor/index.html)をご利用ください。女性アスリート支援のための講習を受講した婦人科の先生を、日本の地域ごとに検索することが可能です。


骨密度の低下(骨粗鬆症)の影響

女性は20代頃に骨量が最大になり、閉経後に急激に骨密度が低下します。

しかし、10代で適切な体重を獲得できず、エストロゲン分泌が無いまま20代を迎えてしまうと、その後、生涯にわたり骨量が少ない(骨密度が低い)状態になってしまいます
そのため、10代での疲労骨折のリスクと、閉経後の骨折のリスクが高くなってしまうのです。

*疲労骨折を何度も経験した選手のインタビューはこちら(前編)&(後編)から


疲労骨折とは

疲労骨折は繰り返しの負荷で発生します。

女性アスリートは、男性アスリートと比べ疲労骨折になりやすい傾向にあり、特に審美系、持久系のアスリートは競技の特性上、同じ部位に負荷が加わるため、疲労骨折が多いことがわかっています。また、この2つの競技では無月経や低体重のアスリートが多いことからも、女性アスリートの三主徴と疲労骨折が深く関わっていることがわかるでしょう。では、利用可能エネルギー不足が起因となる疲労骨折の場合、どのように予防・対処すればいいのでしょうか?

疲労骨折の予防策とマネジメント

利用可能エネルギー不足に起因する疲労骨折の場合、次のような予防策とマネジメントがあります。

①利用可能エネルギー不足になっているかの確認(スクリーニング)

身長と体重から肥満度を算出するBMI(Body Mass Index)をスクリーニングとして用いることができます。下記の状態に当てはまらなくても、利用可能エネルギー不足になっている場合もあるため注意が必要です。

②エネルギーバランスの改善

利用エネルギーと消費エネルギーのバランスが取れていない場合、エネルギーバランスの改善が必要です。つまり、「食事量を増やす、かつ(または)運動量を減らす」ことです。

具体的には、「200〜600kcal/日エネルギー量を増やす」とアメリカスポーツ医学会や国際オリンピック委員会では指針を出しています。

  • 日本医師会ホームページで1日に必要な推定エネルギー必要量を簡単に計算できます。こちらから
  • 明治のホームページでは1食分や1日分の食事バランスをチェックすることができます。こちらから

③エストロゲン治療

食事で利用可能エネルギー不足を改善しても月経が再開しないアスリートや、低骨量/骨粗鬆症のアスリートの場合、エストロゲン治療を検討します。あくまでも利用エネルギー不足の改善が第一となり、エストロゲン治療を行っている間も、エネルギーバランスの改善は継続することが重要です。

④運動量・休息の調整

高校や大学に入学直後のアスリートの場合、急激な負荷量の増加を避けるために、運動量や負荷量、休息の調整をすることが大切です。

⑤保護者・指導者への教育

「エネルギーが足りないことが原因で、月経不順や怪我を招いてしまうことがある」ということを知らない人も多く、特にジュニア世代の場合、本人に知識があっても保護者や指導者から理解を得られずに、エネルギー摂取を控えるよう言われてしまうことがあります。お子さんや生徒・学生が月経不順や無月経であった場合には放置するのではなく、婦人科を受診することや専門家に相談することを勧めることも大切です。


参考文献

  1. 東京大学医学部付属病院 女性診療科・産科. Conditioning Guide for Female Athletes 1 月経対策をしてコンディションを整えよう!. 2021. http://f-athletes.jp/download/pdf/210316_ConditiongGuide1.pdf
  2. 東京大学医学部付属病院 女性診療科・産科. Conditioning Guide for Female Athletes 2 月経対策をしてコンディションを整えよう!. 2021. http://f-athletes.jp/download/pdf/210316_ConditiongGuide2.pdf
  3. 東京大学医学部付属病院 女性診療科・産科. Health Management for Female Athletes Ver.3-女性アスリートのための月経対策ハンドブック-「女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究」2018. https://www.jpnsport.go.jp/Portals/0/HMFAver3.pdf
  4. 平池 修. 女性スポーツ診療ハンドブック. 中外医学社. 2020.
  5. 須永美歌子. 性差を考慮したコンディション管理の必要性. 年報体育社会学4:17-22, 2023.
  6. De Souza MJ et al. 2014 Female Athlete Triad Coalition Consensus Statement on Treatment and Return to Play of the Female Athlete Triad: 1st International Conference held in San Francisco, California, May 2012 and 2nd International Conference held in Indianapolis, Indiana, May 2013, Br J Sports Med, 48, 289, 2014.

おすすめサイト

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https://www.smartlife.mhlw.go.jp/event/honekatsu/
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